貴婦人と一角獣 (La Dame à la licorne)

タペストリーは6枚からなる連作で、制作年や場所の詳細は不明だが、パリで下絵が描かれ、15世紀末(1484年から1500年頃)のフランドルで織られたものとみられている。1841年、歴史記念物監督官で小説家でもあったプロスペル・メリメがクルーズ県にあるブーサック城(Château de Boussac)で発見した。

タペストリーは保存状態が悪く傷んでいたが、小説家ジョルジュ・サンドが『ジャンヌ』(1844年)の作中で、このタペストリーを賛美したことで世の関心を集めることとなった。1882年、この連作はクリュニー美術館(中世美術館)に移され、現在に至っている。

六つのタペストリーには、それぞれ若い貴婦人がユニコーンとともにいる場面が描かれる。ほかに獅子や猿もともに描かれているものもある。背景は千花模様(ミル・フルール、複雑な花や植物が一面にあしらわれた模様)が描かれる。

赤い地に草花やウサギ・鳥などの小動物が一面に広がって小宇宙を形作っており、ミル・フルールによるタペストリーの代表的な作例となっている。タペストリーは六つの感覚、「味覚」、「聴覚」、「視覚」、「嗅覚」、「触覚」、そして「我が唯一つの望み」(A mon seul désir)をテーマとして示したものとされる。

「我が唯一つの望み」は、普通「愛」や「理解」と解釈されることが多い。タペストリーに描かれた旗、ユニコーンや獅子が身に着けている盾には、フランス王シャルル7世の宮廷の有力者で、リヨン出身のジャン・ル・ヴィスト(Jean Le Viste)の紋章(三つの三日月)がある。このため、彼がこのタペストリーを作らせた人物ではないかと見られている。

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