日本の木版絵師、図案家、本名は小林嘉一郎(1896年-1968年)。大正後期から昭和初期にかけ、京都で木版絵師として絵はがき・絵封筒などのデザインを手がける。京都京極三条の「さくら井屋」を版元に数多くの作品が売り出された。
1928年(昭和3年)発表の谷崎潤一郎の小説『卍』の文中には、かいちの絵封筒「桜らんぼ」「トランプ」の2作品に関する記述がある。
昭和初期以降は、かいちの存在は少しずつ忘れ去られ、一部のアンティークのファンや絵はがきの収集家などの間でだけ認知されるようになった。作風はアール・デコスタイル、叙情性をもちモダンと呼ばれた西洋的な様式やモチーフと日本的な雰囲気との調和は、華やかな大正ロマンを感じさせる。
作品の画面はシンプルでシャープな線と面、印象的な色彩表現によりアール・デコ様式の装飾性を持ち「京都のアール・デコ」とも称される。モチーフはハート・月・星・薔薇・トランプ・十字架・女性などロマンティックなものがよく使われている。
目鼻立ちが描かれていないにもかかわらず物憂げな心情を感じさせる女性像など、装飾性を持ちながらメランコリックな雰囲気を醸し出した作風には表現主義の影響が見てとれる。雅号もしくは作品のサインには「嘉一」「歌治」「うたぢ」「う多路」「Utaji」がある。かいちの性別・生没年・正確な作品点数・私生活などは不明で「謎の叙情版画家」「謎の画家」と称される。