オットー・ネーベル展

日本初の回顧展となる本展では、ネーベルの活動初期から晩年までの作品を展観する。イタリア滞在中に各都市の景観を色彩で表現したスケッチブック「イタリアのカラー・アトラス(色彩地図帳)」や、都市の建築物の輪郭を単純化したかたちと色彩で捉えた「都市の建築シリーズ」、後半生に描いた実験的な抽象画など、バリエーション豊かな作品が一堂に会する。

また本展では、クレーやカンディンスキー、シャガールなど、ネーベルに影響を与えた同時代の画家たちの作品もあわせて紹介し、20世紀美術の流れのなかで、ネーベルの創作活動の軌跡をたどる。数冊のスケッチブックを併せて展示する本展は、ネーベルが鋭敏な感覚で外界世界を観察し、飽くなき実験により身につけた熟練の技を駆使して「正確」に描き出していく、その創作の過程も堪能できる貴重な機会となるだろう。

オットー・ネーベル(1892〜1973)はベルリンに生まれ、スイス・ドイツで活動した画家である。

1920年代半ばにワイマールに滞在し、バウハウスでカンディンスキーやクレーと出会い、長年にわたる友情を育んだ。

美術のみならず、建築や演劇も学んだネーベルは、画家としてだけでなく、版画家や詩人としても活動した。

ベルンで82才の生涯を終えたオットー・ネーベルの2000点に近い絵画と4000点以上の素描を含む膨大な作品は、画家の没後、遺言によってベルンのオットー・ネーベル財団に託された。

それらの作品群に含まれた色とりどりのスケッチブックは、画家自身によって表紙にナンバーのステッカーが貼られ、タイトルが付されて整理されているだけでなく、時には序文やあとがきとして詳細な説明が付け加えられるなど、画家の創作の歩みを示す貴重な記録となっている。

ネーベルのスケッチブックは、この画家が徹底した外界の観察から出発していることを如実に物語っていると同時に、画家の目を通して捉えられた事物が内なる世界において変容を遂げていく過程を教えてくれる。

『イタリアのカラー・アトラス(色彩地図帳)』は、まさにその好例である。

1931年10月、ローマに到着したネーベルは南国の強い光の下で、驚くほどの階調を含む色彩の輝きに文字通り開眼し、訪れた各都市の色彩、光、響き、ニュアンスの詳細な記録にとりかかった。

各頁に描かれた一見不揃いにみえる幾何学的な色面の形状は、ある景観において特定の色彩の占める量の大小やその響きの強弱によって定められた。

各場所の「カラー・アトラス」に添えられたメモには、家の壁や漁船、オリーブや松の林、山脈や海岸など色彩や響きの元となる「対象物」が記され、個々の対象をどのように色と形へと対応させていったのかが見てとれる。

すでに若き日のバウハウスで、妻の師であったゲルトルート・グルノウの「感性調和論」の教えに傾倒していたネーベルは、色彩、音響、動作の根本的な関連性を捉えるために感覚器官を研ぎすませるメソッドを学んでいた。イタリアでの体験はまさにそのメソッドの実践の場となったのである。

数冊のスケッチブックを併せて展示する本展は、ネーベルが鋭敏な感覚で外界世界を観察し、飽くなき実験により身につけた熟練の技を駆使して「正確」に描き出していく、その創作の過程も堪能できる貴重な機会となるだろう。

ザ ・ ミュージアム 主任学芸員 廣川暁生

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