村の歴史
かつて多くの船舶で賑わいを見せたロット川の渓谷を監視するため、ガロ・ロマン期にはすでにこの地に多くの人々が住みついていた。中世にはカルダイヤック家、カステルノー家、グルドン家、ラポピー家という権力を分かつ4つの名家によって城が建設され、村は城塞化された。12世紀に試みられたイングランド王リチャード1世によるこの地の征服は失敗したものの、14世紀に勃発した百年戦争の時代には、フランスとイギリスの間で激しい争奪が繰り広げられた。
サン・シル・ラポピー城
16世紀の終わりにはカルヴァン派プロテスタントのユグノーによって2度この村が支配されたこともあり、ルイ4世やシャルル8世の提言に従いアンリ4世は街を完全に破壊した。その際に城塞のほとんどは失われたが、渓谷を見下ろす村の最も高い部分には、10世紀以降に姿を変えながら村を見守ってきたサン・シル・ラポピー城が廃墟となって残されている。また村の入口に佇むロカマドゥール門も、当時の強固な街の名残りを留めている。
サン・シル・エ・サン・ジュリエット教会
サン・シル・ラポピー城の麓には、12世紀に築かれた要塞化された教会が佇んでいる。ロマネスク・ゴシック様式の重厚かつ可憐なフォルムが印象的で、4世紀に最も若くして亡くなったキリスト教殉職者として知られる聖シルとその母だった聖ジュリエットに捧げられている。人口の増加と共に15世紀に大規模な改修が行われたが、最初の建設で施された植物を象った彫刻や、13世紀の壁画がかつての面影を今に伝えている。また城付属の教会として使われていた時代の後陣が残り、四角形の鐘楼は見事な螺旋階段を備えている。
芸術家に愛された村
多くの災難を経たサン・シル・ラポピーの村だったが、特徴的な建築に周囲の自然風景が調和する美しい村の景観が保たれている。シュルレアリスムの父としても知られるアンドレ・ブルトンもこの土地に惹きつけられ、別荘を購入し夏季を過ごした。現在でも村内には芸術家のギャラリーが数多く点在し、村内を散策するだけでも楽しい。この地域の伝統的な民家の中に造られたリニョー美術館(Musée Rignault)では、20世紀初頭に活躍した美術品収集家エミール・ジョセフ・リニョーが残した近代芸術の数々が展示されている。またこの建物の庭からは、ロット渓谷を見下ろす雄大な眺めが広がる。