ポンペイ「秘儀荘」(Villa dei Misteri)

ポンペイが位置するカンパーニア地方の中心ネアポリス(ナポリ)はギリシア人が建設した植民都市として発展し、前3世紀に都市国家ローマに征服されるもカンパーニアはギリシア文化が根強く残っていた。

ポンペイ遺跡域外の西の外れ、海岸に面した場所に建つ邸宅で前2世紀ごろまでは簡素な家屋だった。

紀元62年の地震のあと農業会社の所有となり、小作人の部屋・農具置き場・ブドウを絞る部屋・家の守護神の祭壇、パンを焼くかまど、そして、ディオニュソスの秘儀の壁画の部屋(秘儀の間)がある。ポンペイの壁画のなかでは最も保存状態が良い。

紀元前一世紀半ばの作の壁画は、食堂の正面、左右の壁には当時このあたりに流行し、後にイタリア全土に広まったディオニュソス信仰にかかわる秘密の儀式の様子が高さ3M・長さ17Mの装飾帯として描かれる。

ディオニュソスはバッカスと呼ばれる酒の神である。“ディオニュソスの秘儀”は女性の信者を中心とした集団陶酔で、日ごろのストレスやもやもやを解消するため、ディオニュソスの神を讃え、酒を飲み、過激に踊り狂い、獣を八つ裂きにしたりする。

憑きから覚めるとまた、何もなかったかのように普通の女にもどる。

ローマの元老院は「ディオニュソスの秘儀」を禁止していたが、ローマの目がとどきにくい南イタリアを中心にディオニュソス信仰は定着していた。

前1世紀ごろ秘儀荘の女主人はカンパーニアの画家に居間の壁画としてディオニュソスの秘儀を描かせた。

ディオニュソス Dionysos

ギリシア神話の神であるが、ギリシア伝統の神ではなく、トラキア地方からギリシアに前1200年ころに入ってきた神で豊穣神、特にぶどう酒の神。

ギリシア神話にはディオニュソスについて次のようにある。

主神ゼウスとテーバイ王カドモスの姪セメレとの子。
ゼウスの妻ヘラは夫の浮気相手のセメレを大変に憎み、彼女をだましてゼウスの雷に打たれて死ぬように仕向けた。
このため、まだ胎児だったディオニュソスは、ゼウスの腿の中に埋め込まれ、月満ちるまで匿われた。
ゼウスは生まれたディオニュソスをニンフとシレノスに養育させるように、ヘルメスに命じた。
シレノスは牧羊神パンの息子で太鼓腹の背の低い森の神。
大変に賢くディオニュソスにぶどうの栽培を教えた。
ディオニュソスとシレノスは、地中海沿岸を旅し、人々にぶどうの栽培を教えた。
二人の後には、酔い、踊る人々がついてまわった。
彼らはディオニュソスの信者たちである。
信者の中には、サテュロスやマイナスたちがいた。
各地で民衆の支持を得たが、ギリシア本土では彼の神性を認めない人々もいるで、その人々を狂わせたり 動物に変えるなどの力を示したので、やがて神として畏怖される存在となった。
ナクソス島でアリアドネを妻とし、母を冥界から連れ戻して天上に住まわせた。
ギリシア・アテネの全盛期(前5世紀)にはディオニュソスの祭りである、演劇コンクールが盛んだった。
オリンポスの十二神には入っていない。

パッヘルベルのカノン 〜 ポンペイ「秘儀荘」(Villa dei Misteri)