アンリ・マティス 『ロザリオ礼拝堂』

ニースの西、空港のすぐ近くにヴァール川が流れる。この川を境にして、東はイタリア文化の影響、西はプロバンスの文化の影響を受けているようだ。ヴァール川は文化的な国境かもしれない。ニースの北の山裾にヴァンスという小さな村がある。

その山肌に建つ礼拝堂が、アンリ・マティス作の『ロザリオ礼拝堂』。画家マティスが晩年にデザインし、マティス芸術の集大成とも言われる。1948年から51年まで、3年以上もの歳月をかけた。訪れるなら冬の午前11時、小さな礼拝堂はその瞬間に光の楽園になるという。使われている色は青、緑、黄色の3色で、壁一面のステンドグラスが光を送り出す。

印象派の次の時代を模索したマティスは、鮮やかな色彩による構成の「野獣派」と呼ばれ、野獣派の活動が短期間で終わった後も、20世紀を代表する芸術家の一人として活動を続け、自然を愛し「色彩の魔術師」とも謳われた。

1951年、礼拝堂は完成し、その4年後、84歳で、マティスはその生涯を閉じる。
愛を表現しようとした画家が生み出した救いの空間、『ロザリオ礼拝堂』、光を追い求めたマティスが辿り着いた理想の楽園でもあるのだろう。