藤前干潟


 渡り鳥たちの楽園、名古屋港の藤前干潟に「マイクロプラスチック」ごみの問題が浮かび上がっています。
 名古屋港の一画、潮が引きはじめると、藤前干潟が姿をあらわします。年間を通じて、たくさんの種類の渡り鳥がやってくるこの場所は、国の鳥獣保護区に指定されているほか、国際的に重要な湿地に関する条約「ラムサール条約」に登録されています。

「藤前干潟は20数年前にごみ非常事態宣言ということで、市民の皆様と一緒にごみの減量にとりくむきっかけとなった場所です」(名古屋市環境局ごみ減量部 川浦雄介主査)

 今から30年以上前、まだラムサール条約に登録される前の藤前干潟が名古屋市の新たなごみ処理施設の候補地として埋め立てられる計画がありました。

 この動きに、藤前干潟を守ろうと市民らが声をあげ、1999年、藤前干潟の埋立計画は中止に。名古屋市は、ごみの減量化に向けて動き出しごみの分別の徹底が進められたのです。
 

マイクロプラスチックが出来る過程
新たなごみ問題「マイクロプラスチック」
 そんな藤前干潟で、いま新たなごみ問題が…

「この大きな藤前干潟で、問題となっているのが小さなマイクロプラスチックです」(記者)

 マイクロプラスチックとは、5ミリ以下のプラスチックのかけらのことです。

 海や川などに捨てられたプラスチックが流れによって運ばれ、岸に漂着し、紫外線や寒暖差などで劣化。そして打ち寄せる波にさらされ、次第にマイクロプラスチックと呼ばれる小さなかけらとなります。

 藤前干潟にも、このマイクロプラスチックの粒が多く漂着しています。

 なぜ、藤前干潟に…伊勢湾の環境問題を研究している、四日市大学の千葉賢教授に聞きました。

「藤前干潟の周辺には庄内川や新川という大きな河川が流れ込み、名古屋市や岐阜県など大きな都市を流れてきている」「川に色んなプラスチックが流れ込んでいると思う」「それが藤前干潟に漂着してしまっている」「プラスチックが小さくマイクロ化すると小さな生物が体内に取り入れてしまう」(四日市大学 環境情報学部 千葉賢教授)

「動物性プランクトンですと、数十ミクロンから1ミリぐらいのものが多いけど、それよりも小さなマイクロプラスチックがあふれてくると、動物性プランクトンが体に間違えて取り入れてしまう」「食物連鎖でそれよりも大きな動物たちが次々に食べて生態系に影響が出てくる」「そういった点でマイクロプラスチックは特に問題視されている」(千葉教授)

 毒物が付着している恐れがあるため、生き物たちが誤って食べてしまうと危険を及ぼしかねないマイクロプラスチック。いったい、どれくらいの量が藤前干潟に漂着しているのか。
 

マイクロプラスチック
調査に参加した高校生「もっとたくさんあると思うと怖い」
 実態を探るべく、名古屋市が地元の高校生らとともに調査しました。

 砂などをすくってふるいにかけ、残ったごみを集めます。集めたごみを藤前干潟近くの施設に持ち帰り、その中から、マイクロプラスチックを1つ1つピンセットで取り出します。

「多すぎます。半分ぐらいの量だと思っていたら思っていたより多すぎて」「大体2000個弱あります」(参加した高校生)
「少しとっただけでこれだけの量が出るということは、もっとたくさんあるんじゃないかなと思って、ちょっとこわくなりました」(参加した高校生)

 今回の調査で、一番多く見られたのは…

「つぶれるものは全部中にもともと液体肥料が入っていて、カプセルの外側の部分なので全部拾ってください」(市の職員)
 

藤前干潟
専門家「われわれに与えられた新たな課題」
 「マイクロプラスチック」の正体は、「農業肥料のカプセル」です。

「主に稲作で使う肥料の周りのプラスチックのコーティング」「田んぼには水量が増えたときに水を抜くための水路がある」「大雨がふったときに農家のかたは水路をあけて、水を流してそのときに出てきてしまう」(千葉教授)

 水路から河川を経て、マイクロプラスチックは藤前干潟へと流れつきます。

「水田で使って1~2年後に殻だけになったカプセルが出てくるが、海岸に漂着したものを見てみるとほとんど劣化していない」「ペットボトルなどは細かくなって見えなくなるまで400~450年かかるといわれている。簡単には完全にはなくなるということにはならない」(千葉教授)

 調査に参加した高校生たちは…

「プラスチックの使用方法を考えないといけないなと思った」(参加した高校生)
「マイクロプラスチックはよくないと前から思っていたのですが、活動に参加してその気持ちがより強くなった」(参加した高校生)

 私たちの生活から生まれる小さなプラスチックが世界も認めた生き物たちの楽園をおびやかそうとしています。

「われわれに与えられた新たな課題」「単に干潟を守るだけではなく、干潟に漂着する私たちが生活で使ってきたものが干潟の生き物の邪魔をしている」「削減する対策をしなければいけない。ぼくは出来ると思うし、そういう方向に向かうことが必要」(千葉教授)

(11月18日 15:40~放送 メ~テレ『アップ!』より)